先日、由良町吹井の畑山造船株式会社で新型タグボートの進水式を取材した。タグボートは湾内などで大型船舶がスムーズに離着岸できるようにロープで引っ張ったりする船舶で、小さいながらもパワフルで小回りがきく特徴がある。今回進水したのは全長38㍍、型幅9・6㍍、型深3・5㍍の「みらい」。300㍍級のタンカーが停泊している由良湾では小さい方になるが、それでも陸に上がっている船の船底から見上げる迫力はすごいもので、進水時も豪快に水しぶきを上げて海に入っていった。

 何より驚いたのが、この最新鋭のタグボートをこの造船所でゼロから作り上げているということだ。同社のことは過去に本紙でも取り上げられており、また筆者も由良町在住なので知ってはいたが、訪ねたのは初めて。案内してもらった船内には複数の配管が配置されており、その複雑さに困惑するほど。また素人目だが、工場自体も巨大で最新鋭の機器が自動的に作業しているというわけでない。いくつかの作業場があり、いたるところに資材があり、足元にあった大きな鉄板にも切断用の印なのか、さまざまな線や文字が書かれていた。すれ違いざまに気さくにあいさつしてくれる従業員の方たちがそれぞれの仕事をこなし、約半年でここまでの船に仕上げることができるのかと、さらに驚かされた。

 「うちは営業をおいていないのですよ。この船たちが営業をしてくれるのですよね」との言葉が印象的だった。この自信は創業約90年、造船数307隻という数字が証明してくれている。由良町という小さな港町に世界に誇る大きな技術力を持った造船所がある。周知のことではあるだろうが、紙面を通じてより多く人に知ってもらいたい。(城)