2月のテーマは「冬の味覚」とします。女性歌人が、豊かな感性あふれる言葉で「食」にまつわる思い出などをつづった一冊をご紹介します。

 「千年ごはん」(東直子著、中公文庫)

 著者は絵本や小説、ミュージカル脚本など幅広いジャンルでも活躍する女性歌人。本業の短歌では、NHK短歌選者、角川短歌賞選考委員等を務めています。

 本書は「歌壇」誌に連載されたエッセイで、章ごとにその食材などを詠んだ短歌も掲載。食感や味などが見事に表現されています。「冬の滋味」の章を紹介。

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 冬が深まると、どういうわけか、物の考え方が悲観的になってゆく。心が冬ごもりに入るのだと思う。そういうときには、冬の野菜がよく効く。それも生のまま食べるのがいい。(略)白菜は、根元の厚い部分をそぎ切りにして、岩塩などの自然塩をふりかけ、前歯で細かく齧ってゆく。(略)気分はまさに「私はうさぎ」。(略)

 新鮮な野菜は、ほんとうにこころよい。冬を乗り越えるためのエネルギーを十分にたくわえた冬野菜は、どれもみな、ふくよかなあまさがある。動かず、何も言わない植物のしずかな命を身体にとかして、沁みこんだ心を包み込むのだ。さりさりさり、と。