民放では為し得ない、年始から年末まで1年間という長丁場のドラマ(例外としてTBSに「渡る世間は鬼ばかり」がありましたが)NHK大河。第62作「どうする家康」もいよいよ最終回目前となりました。本当はここで山岡荘八著「徳川家康」全26巻でも紹介したいところですが、気にはなりながらもあいにく大作すぎて未読。今回は徳川家臣団の「武略」と「智略」の両雄、奇しくも同じ名字の2人にスポットを当てた一冊をご紹介します。文庫書き下ろしで、今年7月に出版されました。

 物語 時は1563年、所は岡崎。若き領主徳川家康を、三河一向一揆が悩ませていた。家臣だったのに出奔して一揆衆に加わった武将・本多弥八郎正信は、家中に多い本多一族の分家。一揆を鎮める戦いの場で、本家の猛将・本多平八郎忠勝に出くわす。この場で、武略の誉れ高い忠勝は正信を「腰抜け」と罵倒。それがのちのちまで、「武」よりも「智」に生きる正信のトラウマとなる。三方ヶ原、本能寺後の伊賀越えと、未来の天下人・家康を次々に襲う試練。ふたりの本多はいかにして彼を、盤石たる平和の礎を築く人物にまで押し上げていったのか…。

 大将を支える両翼という、わかりやすい構図の人間関係(「ONE PIECE」でいえばゾロとサンジですね)。
 大河では、前半は松本潤演じる家康が毎回「どうしたらええんじゃ~っ」とうろたえて終わっていましたが、正室瀬名と長男信康を失って以降の後半は見違えるようにきりりと、多くの家臣を束ねる主君らしく変貌。瀬名が悪女ではなく「家康と仲睦まじかった」「平和国家構想を抱いていた」という、歴史家には受け入れ難そうな大胆な設定ですが、私は大変面白く観てきました。歴史を学ぶことと物語を味わうことはまったく次元の異なる楽しみで、どちらが上とか下とかいうことはありません。この「2023年NHK大河ドラマ」としての家康の物語は、これでいいのだと思います。若い役者たちが大きな歴史の流れの中の役に感情移入しながら演じるのを見ているのは、なかなかいいものです。そのことによって彼ら自身の役者としての懐が深く、柄が大きくなっていくように思えます。

 で、「ふたりの本多」。表紙を見ただけで、山田裕貴の忠勝、松山ケンイチの正信が浮かびます。よい家臣に恵まれたことも、家康自身の持つ「徳」の一つだったのだなという気がします。家康という稀有な人物を側近の目から捉えるという視点は一つの試みとして興味深く、家康の天下取りが縦糸、「武」と「智」の2人のある意味での確執が横糸になっている構成は面白く読めました。
 しかし今となっては、やはり家康本人を真正面から捉えた物語が読みたくなっているので、年明けあたりから全26巻に手を付け始めるかも知れません。 (里)