今月のテーマは、先日他界された脚本家の山田太一氏。今回はエッセイ集から。

 「いつもの雑踏、いつもの場所で」(新潮文庫)

 4作目のエッセイ集。「運動会の雨」という章の一節をご紹介します。

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 薄日の射していたいた空がみるみる暗くなり「おやァ?」などといっているうちに四種目残して雨が落ちはじめ、あっという間に土砂降りになった。(略)「最後のリレーだけやろう」と校長が、決心したように教頭にいった。一年生から六年生までの選手が走るリレーである。(略)

 ころぶ子が何人もいて、ころばなかった子も泥まみれで、素晴らしいレースだった。涙を拭く大人が何人もいた。終わって全員が雨の中に整列し、同じくずぶ濡れの校長が閉会の挨拶をし、あとで考えると不思議なくらい大きな感動がグラウンドに満ちた。(略)小さな体験から大げさなことをいうようだが、支障というものは避ければいいというものではないのだな、と思う。(略)運動会の雨がただ不都合なだけではなかったように、通常マイナスと思えるもの、邪魔と思えるものが、実は私たちをどれだけ豊かにしているかということを思うのである。