台湾情勢が緊張感をはらんで来ている昨今、昔からなぜか台湾が大好きなので、いろいろ昔からの台湾に関する本を取り寄せて読んでいます。その中でも読み応えがダントツの一冊をご紹介します。目からウロコの解説は大変勉強になります。何より、元台湾総統の故李登輝氏の描写が素晴らしい!

 内容 2000年、長い一党支配が終り、初めて民主的選挙で政権交代した台湾。著者は徹底した取材で、この「国産み神話」誕生の瞬間を記していく。

 第1章は「台湾で李登輝氏と会う」。連載している雑誌の発売が2週間空くので、その間に一度台湾を見てくることにした著者。編集者から「ひょっとして李登輝に会えるかも」と言われたが、冗談だと思っていた。

 李登輝氏は初めて本省人(戦前から台湾に住んでいる人々)で台湾総統となり、民主化を実現した人物。22歳まで日本国籍で、日本文化への造詣も深い。

 台北に到着後、まずは現地の人々の歓迎の宴に出席。60歳以上の人々はみんな日本語ペラペラで、日本の童謡や神話などについて和やかに語る。中には明治天皇が台湾について詠んだ「新高の山のふもとの氏草も茂りそひぬと聞くぞうれしき」との歌を教えてくれる人も。著者は、戦後民主主義によって日本人が祖国への誇りを失くしている中、こんなにも戦前戦中の日本の思い出や美風を和やかに語り伝えている人々が台湾にいることを感慨深く思う。そこへ、「明日、李登輝さんが小林さんにお会いします」との知らせの電話があり、仰天。

 翌日、李登輝邸にて、本人から笑顔で歓迎を受け、著者の漫画をしっかり読んでくれていることに感激。1時間の対談の予定をはるかにオーバーし、3時間にわたってみっちり話し合うことになる。これが著者と李氏の長く熱い交友の始まりだった…。

 著者による李登輝氏の絵は本人とよく似ていて、そして非常に魅力的です。この絵を見るだけでも、著者の李登輝氏への敬愛の念が伝わってくるように思います。

「この人は何でこう人に元気を与えるような前向きの話し方ができるんだろう? この人にはニヒリズムが巣食ってない 人間の可能性を信じている」

 日本による台湾統治時代、日本は台湾のために大きな仕事をやった。それを日本の若い世代はもっと知らねばならない。

 その李氏の主張の内容を、著者は若者にも分かりやすく漫画で解説していきます。

 文庫化された2008年には国民党の馬英九が総統となったので、加筆した分ではそのことへの憂慮が表明されていますが、その後、16年には蔡英文さんが総統となり、状況は劇的に変わりました。

 なのにまた状況が不穏になりつつある今、現在の「台湾論」を書いてほしいなと思えました。(里)