先日、NHKBSプレミアムで、夫のがんをきっかけに関係を再構築していく夫婦を描いたドラマが放送された。撮影前、主人公を演じた俳優が実際にがんになった人や家族を訪ねて話を聞き、そのドキュメンタリーもオンエアされた。

 妻を演じた多部未華子さんは、夫が突然、がんを告知され、その後の妊孕(にんよう)性温存療法で懐妊、出産した御坊市の西川まりえさんから話を聞いた。

 妊孕性とは、妊娠に必要な子宮や卵巣、精巣などの臓器と機能のことで、薬物や放射線のがん治療を始める前に精子や卵子、受精卵を凍結保存したり、体外受精で妊娠を目指す医療を妊孕性温存療法という。

 夫が思うように回復しないなか、日々、小さな楽しみを共有しながら過ごしていたが、まりえさんは「生きる希望となる大きな幸せをあげることはできないのかな」という思いがあった。

 互いに子どもは欲しかった。「私が妊娠できたら、大きな喜びになるかも」。当時は非常勤職員だったが、夫が亡くなっても1人で子どもを育てられるよう、猛勉強で正職員の試験に合格。そして踏み切った体外受精で小さな命を授かった。

 夫は長男の誕生後、初めて「死にたくない」と口にした。まりえさんは「私のエゴかもしれないけど、そう思ってくれたことがうれしく、すごく悲しくもあった。でも、そのときは幸せを実感した」という。

 夫の余命は2年といわれていたが、告知から2年2カ月後に子どもが産まれ、さらに7カ月間、家族3人の時間を過ごせた。妻の妊娠、出産、わが子のかわいい笑顔が生きる力となった。

 まりえさんはいま、子育てに奮闘しながら、「大変さより喜びをもらうことの方が多い。本当によかった」と話している。(静)