インドネシア元大統領夫人で国際文化人、デヴィ・スカルノ夫人が講師となった市民教養講座を取材した。戦時下のウクライナへ支援物資を届けられ、帰国した翌日の講演である◆さっそうと赤いドレスで登壇、爪の色は明るいブルーと黄色。ウクライナカラーである。「ウクライナを負けさせるようなことは決してあってはなりません。それはウクライナを『民主主義の墓場』としてしまうことです」とブログで綴っており、その言葉は昨年2月24日以降の筆者の思いそのままだった。質疑応答コーナーで観客からウクライナ行きについて質問も上がったが、深刻な被害状況などに言及するには時間があまりに短く、「ウクライナの人々は1平方㍍たりとも領土をロシアには渡さない、自分たちの民族で絶対に守るという非常に強い意志を持っている」との印象を述べるにとどまった◆講演で語られたのは「戦いの連続」だった波乱の人生。「戦争と貧しさを体験したことが神様のギフト」だったという。それがあったからこそ、その後の困難を乗り越えることができた、と。並の困難ではない。一国のクーデターである◆スカルノ大統領は、350年間オランダの植民地だったインドネシアの人々に誇りを取り戻すため戦った人だった。夫人も、民族の誇りをもって理不尽な敵と戦うウクライナの人々に共鳴を感じられたのではないだろうか。今月6日で83歳。その年齢で国境を超えたハードな活動をこなせるのは「気」のおかげという。「気」とは「誇り」と一体であるように思う◆観客には「探求心を持ち続ければいつまでも若くいられる」とアドバイス。「わたくし」という、普段の会話で使われることの少ない引き締まった一人称が似つかわしく感じられた。(里)