ワクチン効果を説明する尾島氏

 県立医科大学は9日、大腸がん患者のiPS細胞から作られた免疫細胞の一部である「樹状細胞」を使って、患者本人のがん細胞を攻撃、消滅させるワクチン効果を世界で初めて確認したと、発表した。人工的に生み出せるiPS細胞を利用することで、わずかな血液から大量かつ安定した機能を持つ樹状細胞を作れるのが特長。将来的には、消化器がんの患者に対する個別のワクチン療法の確立につながると期待されている。

 がんのワクチン療法は、患者自身のがんに対する免疫を高め、がんの進行を抑制、消滅させる免疫療法の一つ。樹状細胞が、がん細胞を攻撃、消滅させるキラーT細胞を誘導する仕組みで、患者本人の免疫を応用するため副作用の少ない治療が可能。これまでも樹状細胞を使ったワクチン療法が数多く研究され、臨床応用も始まっている。しかし、がん患者から直接採取する樹状細胞は弱く、量も少ないうえに、キラーT細胞を誘導する能力も低いため、想定したワクチン効果が得られないという問題があった。


 このため、京都大学の山中伸弥教授らによって作り出されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)に着目。末梢血から樹立したiPS細胞を使って樹状細胞を作り出す研究を進め、これまでマウスや元気な人の樹状細胞で抗がん効果を確認していた。今回、大腸がん患者のiPS細胞から作られた樹状細胞が、患者本人のがんに効果があるのかどうかを新たに研究。患者3人をモデルに試験管内での検証を行い、がん細胞を最大で80%消滅させることに成功した。さらに、iPS細胞を使った樹状細胞は、がん細胞で起きた遺伝子異常に伴い新たに出現するがんの抗原「ネオアンチゲン」にキラーT細胞を誘導することも実証した。


 県立医科大学外科学第2講座の山上裕機教授、尾島敏康講師、丸岡慎平医師は「各患者由来のiPS細胞を駆使した究極のテーラーメイド(注文仕立ての)がんワクチン療法の構築を目指して、今後も研究を続けたい」と述べた。