「我々に悪意はない」と、ウラジーミル・プーチンロシア大統領は言った。そのあとに「事態を悪化させる必要はない」と続く。諸国のロシアへの経済制裁についての言及である◆悪意もなく学校や病院にミサイルを撃ち込むとは、どういう了見で為されている行為なのか。「悪意などなく、ただただ隣国を力ずくで自分達のものにしたいだけ」だと言うのだろうか◆憤りを禁じ得ないが、ニュースをただ感情的に見るのは危険である。物事の進むべき方向を見極めるにはどんな時も冷静に情報を精査し、大きな視点でバランスのとれた判断を下す必要がある。ただしその判断は公正さを基準とし、それと同時に温かい血が通っていなければならない◆ロシアは何を求めているか。ウクライナとの間にこれまでどのような歴史の積み重ねがあったのか。調べるほどに、ロシア側がいくら「歴史的にみて一体となるべき」と主張しても、ソビエト政権のためあまりにも過酷な目に遭ってきたウクライナの人々が独立を求めたのは当然と思える◆明るい青と黄色のウクライナ国旗は、空と、麦畑の広がる大地を表すという。かつては「ソ連の穀倉」と呼ばれていた土地だ。その土地に、町に、家々に、容赦なく爆撃が繰り返される◆ひたすら武力によって領土の拡張が行われていた古代や中世と違い、現代の我々は大地に眠る資源が有限であると知っている。悪意があろうとなかろうと、貴重な資源と技術力、そして人材をただ破壊と殺戮にのみ費やす「軍事行動」とは、人類全体にとって不毛で無意味な行為という他はない◆日々、爆撃が繰り返され、子どもを含めた人々が犠牲になる。そんな状態を容認してはいけない。毎日繰り返される報道に、慣れてしまってはいけない。(里)