「平成の怪物」と言われた松坂大輔が現役を引退した。1998年に名門の横浜高校で春と夏の甲子園で優勝した立役者。その後、西武ライオンズに入団し、先発として活躍。06年にポスティング制度で、メジャーリーグのボストン・レッドソックスに移籍し、ワールドシリーズ制覇も経験した。松坂と同じ学年のプロ野球選手らは「松坂世代」と呼ばれるほどで、その言葉からもこの世代の中心選手だったことは間違いない▼松坂の代名詞と言われるのがワインドアップモーション。投球を起こす時に腕を後ろに引いて頭上に振りかぶる一連の動作だが、ワインドアップは特に技術の根幹に関わる動きではなく、むしろ執着するのが時代遅れという考えもあるという。要は見栄えの問題で、言葉を変えるとカッコ良さ。見られることをなりわいとするプロ野球選手には、このカッコ良さが必要なのかもしれない。それだからこそ、松坂がワインドアップにこだわったのだろう▼引退試合は日本ハム戦で行われ、先発で登板。横浜高校の後輩に当たる近藤健介選手が打席に立った。全盛期に150㌔を超える剛速球を投じた面影はなく、118㌔の直球を投げるのがやっと。ストライクは1球しか入らずに結果は四球だった。しかし、5球すべてをワインドアップで投げ、マウンドにはカッコいい松坂がいた。その姿は人の心を打ち、球場からは大きな拍手が上がった。過去の栄光、苦労や努力、野球に対する姿勢などすべてから滲み出た輝きのようにも見えた▼どんな状況に置かれても、どんなに姿が変わってしまっても、カッコ良さは存在する。それは人生も同じ。松坂が投じた5球がそう感じさせてくれた。 (雄)