先の九州場所千秋楽で照ノ富士が優勝を決めた数時間後、同じモンゴル出身の横綱白鵬が引退するとのニュースが流れた。7月の名古屋は全勝で45回目の優勝を決め、「これでまた進める」と話していたが、結局、そのまま引退した。

 北の湖、大鵬に次ぐ若さ、22歳2カ月で綱を張り、2010年の九州では63連勝を記録し、双葉山の69連勝にあと6勝まで迫った。横綱在位84場所、幕内1093勝、通算1187勝はいずれもぶっちぎり。実績をみる限り史上最強の力士だった。

 かつては相撲の神様双葉山に近づこうとひたむきに相撲道を研究、精進を重ねてきたが、いつしか圧倒的な強さを誇示するようになり、かち上げ、張り手、危険なダメ押しなどの乱暴な相撲がスタイルとなった。
 審判への物言い、優勝インタビューでの万歳三唱など批判を浴びた言動も多く、もらって当然の一代年寄も見送られた。辛口解説の北の富士氏は「それが生き方だから」と嘆いていたが、品格よりも強さを追求した土俵人生だった。

 自らの仕事において何を求めるか、何を最優先とするか。ノーベル物理学賞が決まった真鍋淑郎さんは研究者として米国に渡り、米国籍を取得して50年以上になる。国籍を変えた理由として、米国の自由な研究風土、他人を気にしない国民性を挙げていた。

 和を以て貴しと為す日本人の協調性は日本の社会や組織で重要な要素であるが、一方で反対意見や個人の行動を抑え込む同調圧力という言葉で表現されることもある。
 どの国の人も社会も違いがあり、その特徴は一長一短。一面をとらえて批判はできないが、大横綱の引退の寂しさに、その生き方が日本社会に合わなかったのだろうと感じた。    (静)