霊感はさほど強くないはずだが、なぜか奇妙な出来事に遭遇してしまう。本作はノンフィクション作家の著者が、霊感のない夫や友人に笑われながらも、日々の生活の中で体験する不思議な出来事、変な人とのかかわりを淡々と綴ったエッセイ集です。

 収録されている話のほとんどは明るい昼間の出来事。駅から歩いて取材先へ向かう途中、美容院の店主がせっせと生首の髪を切り、いつも玄関先におじいさんが座っている家の前を通るとおじいさんの姿が見えず、中から線香の香りとともに読経が聞こえ、家に帰ると服に線香の粉がついていた。

 表題作は阪神大震災から2年後の神戸で起きたエピソードで、駅から取材先への往復のタクシー運転手の話。行きは初老の男性が震災で息子を亡くし、最近、妻が末期がんを宣告され、東京から来たのなら丸山ワクチンを処方してくれる病院を知らないかという。帰りのタクシーは20代の若い運転手で、母が最近、末期がんを宣告され、行きの運転手と同じく、丸山ワクチンを買える病院を教えてほしいという。

 偶然と片づけるにはあまりに不可思議。これがシンクロニシティ(意味のある偶然)という現象でしょうか。文章はじつにあっさりとしていて、どんくさい自分、ちょっと天然な自分を完全に自覚しながら、「ひょっとしてお化け?」「まさか」と自問しながら、とくにオチもなく不思議なまま終わります。

 著者はいわゆる「見える人」? でもそれはオカルトではなく、人の言動のおかしさに対して本能的に敏感で、周りの人が気づかないレベルの微妙なズレに気づいてしまう〝能力〟の持ち主なのでは。どこか私も共感できるのですが、残念ながら私自身は一般レベルで、これほど強烈な実体験は一度もありません。