真夜中に激しく屋根を打ち付ける雨音、日高川のうなり、けたたましく鳴り響くダム放流のサイレン。2011年9月、台風12号の豪雨に伴う紀伊半島大水害がよみがえる。当時、日高川町皆瀬地内にある筆者の自宅は2階近くまで水没。家族はみんな避難して無事だったが、二度とごめんだ。それでも自然の脅威は容赦ない。昨年8月の台風20号では日高川の氾濫はなかったが、再び真夜中に高台に避難。日高地方は大規模停電にも見舞われた。

 そして今回、お盆に西日本を縦断した台風10号の豪雨。日高川町では、午後11時35分に避難勧告が発令。両親は川向かいの川原河小学校に避難したが、筆者は正直うんざり。眠い目をこすりながら、椿山ダムの放流量のデータや水位のライブカメラの映像をスマホでチェック。放流量は午後11時過ぎには1500㌧を記録。翌日午前3時からは1700㌧を超えてきた。紀伊半島大水害の時は最大3000㌧を放流し、一時4000㌧にもなったので、今回はまだ余裕があるように思えた。雨雲レーダーも、数時間で雨がやむ予報。恐怖を感じながらも自宅で待機を決断し、眠れぬ夜を過ごした。

 結果的に皆瀬地内で日高川の氾濫はなかったが、近年の災害は想定を上回る。東日本大震災の「釜石の奇跡」(岩手県)のように、想定にとらわらず、常に最善を尽くすことが求められる。そう考えると、今回の筆者の自宅待機は決して最善を尽くしていたとは言い難い。もし自宅の裏山で土砂災害が発生していたら、万が一、ダムや河川の堤防が決壊していたら…。ありえない災害が起きる昨今。自戒しつつ、次の大雨に備えたい。(吉)