作家の林真理子さんが講師を務めた市民教養講座を取材した。これまでに読んだ林さんの著書は「着物の悦び」「幸福御礼」の2作。とても面白かったが、あまりに有名な作家なので逆に積極的に読む気にならないまま今に至っていた。だが講演を聴いてみると、NHK大河ドラマ原作「西郷どん!」を今すぐ読みたい気持ちがふつふつと湧き起こってきた◆冒頭で、和歌山出身の作家有吉佐和子を「大好き」と言って下さった。そういえば「着物の悦び」の中で名作「真砂屋お峰」についても書かれていたと思い出し、古い作品も丹念に探して集めている有吉ファンとしては一挙に親近感が湧いた。幕末好きなので、「西郷どん」は多大な興味を持って見ている。制作の裏話が気取らない口調で語られ、内容に関する逸話も数多く紹介された。近藤春菜演じる愛すべき元気な仲居「お虎どん」は、ドラマでは片思いだが史実ではれっきとした西郷の愛人で、「豚姫」という愛称があった。「西郷と豚姫」と題して歌舞伎にもなっている。また奄美大島での妻・愛加那との息子菊次郎は京都市の2代目市長。原作「西郷どん!」は、京都市役所の場面から始まる。西南戦争で右足を失い、義足をつけた西郷菊次郎市長がフロックコートで登場する◆ドラマはこれから江戸城無血開城、明治政府樹立、そして西南戦争へと進んでいく。「17、18歳の子たちが大勢命を落とした」西南戦争について「胸が締め付けられる」と思いを述べ、最終回は泣きながら執筆したと明かした。小説に大切なのは筋道立った理論だけでなく、登場人物を巡る「情」が核になっていることではないか。「西郷どん」が終盤へ差し掛かる前に、「西郷どん!」をぜひとも読まなければと気を逸らせている。(里)