日高町志賀、帝塚山大学文学部非常勤講師・博士(学術)の裏直記さん(33)は、民俗学の学術書「農山漁村の生業環境と祭祀習俗・他界観―紀州日高地方の民俗世界―」を出版した。大学生時代から約10年間、フィールドワークや文献調査、研究などを行い、「農山漁村の民俗文化」「氏神信仰と祭祀習俗」「葬送儀礼と他界観」の3篇で執筆。第2篇では特にふるさと志賀祭の歴史、習わし、変遷などが詳しく記されており、地域の歴史や文化を知る貴重な一冊となっている。
 裏さんは郷土の伝説や昔の生活スタイルなどに詳しかった祖父、熱心な仏教徒だった祖母の影響で子どものころから民俗学に興味を持ち、南部高校卒業後、大手前大学人文科学部日本文化学科に進学。大学を卒業したあとは帝塚山大学大学院で民俗学の権威、赤田光男さんから指導を受けた。3年前に同大学院人文科学研究科博士後期課程修了、大手前大学総合文化学部非常勤講師をへて、現在に至る。
 今回の著書は、博士学位論文「生業技術と祭祀習俗の研究」を基に、大きく改稿、補訂した一冊。大学生時代の平成15年から始めた研究、調査は同24年まで10年間費やした。古文書や専門書など文献は数百冊以上読みあさり、フィールドワークでは日高地方1市6町を訪問して100人以上の住民に聞き取りなどの調査を実施。「地域から得たものを地域に還元したい。少し専門的な内容で一般の人向けではないかもしれないが、より多くの人に日高地方の民俗について知ってもらう機会になれば」と出版を決めた。
 A5判、492㌻。第1篇の「農山漁村の民俗文化」では「農山漁村がいかに形成され、発展してきたか」に迫り、第2篇の「氏神信仰と祭祀習俗」では志賀祭をはじめ、日高川町の寒川祭、上阿田木祭、由良町の衣奈祭、日高町のクエ祭などを取り上げている。第3篇の「葬送儀礼と他界観」では沿岸部と内陸部の盆行事や仏教の広がりなどを詳しく調べ、まとめている。
 第2篇の志賀祭は、昨年の中志賀若中による半世紀ぶりの幟差し復活に自身も携わるなど強い思い入れがあり、32㌻を割いた。書き出しで「祭りで奉納されている芸能の豊かさには他に負けない多彩さを持っている。また神事として奉納されている『鬼獅子』は日高の祭りの特徴であり、祭りを彩る主役を担っている」などと紹介。「若衆に加入していながら、もしくは若衆に加入資格がありながら祭りに参加しない家もある。こういった場合は特別な制裁を与えられたという。それは祭りの当日に前述のような不参加の家に押しかけ、無理やり家の中に押し込むのである」や「鬼獅子という神事芸能は、かつて志賀村一村の時代から受け継がれ、五ヶ村に分村した時には、その奉納形態を当屋制とした輪番で行うようになり、その平等性と、かつて一村であった時の結合を保とうとしたのである」などと昔を伝える記述、興味深い考察もある。
 1冊1万2800円(税別)。購入希望者は、東京都の㈲岩田書院℡03―3326―3757。