県は、由良港湾内の津波対策で総額50億円を投入する一大事業を進めている。港湾入り口の2カ所合わせて総延長450㍍の防波堤を整備し、津波被害を軽減する計画で、現在は地元漁協や企業に事業説明を行っている段階。日高振興局河港課は「まだはっきりしないが、担当レベルとしては来年度にも着工したいと考えている。完成は平成34年度ごろをめどにしている」と話している。
 由良港湾の周辺は、由良町側が網代、里、阿戸、江ノ駒、神谷、日高町側が柏の地区となっており、民家密集地や海上自衛隊の基地のほか、MES―KHI由良ドッグ㈱、㈱駒井ハルテック和歌山工場などの企業もある。巨大地震に伴う津波の被害が懸念される地域で、由良町などが22年度、県に対して津波対策を要望していた。これを受けて県は24年度に由良港湾施設整備として津波対策を事業化。計画によると、神谷の駒井ハルテック側から延長350㍍、高さ6.5㍍、柏地区の通称「ムロノキ鼻」側から延長100㍍、高さ5.5㍍の防波堤を整備。駒井ハルテック側の防波堤の方が1㍍高いのは、海底地盤が軟弱で、地震の際に地盤が若干沈むことを想定している。2カ所の防波堤の間は、約450㍍の距離を開けており、大型船舶などの航路として安全性を確保する。津波が発生した場合、この地点での津波高は4.8㍍(東海・東南海・南海の3連動)を想定。2カ所の防波堤の間にある航路から津波が侵入するため、完全にブロックできるわけではないが、津波の侵入や勢いの抑制で、港湾周辺地域への被害軽減につながると期待されている。
 県は事業化した24年度に約6000万円で現地測量と調査ボーリングを実施。25年度は5300万円で基本設計を行った。26年度は2億5000万円を計上して着工する予定だったが、漁業者から「漁業への影響はどうなるのか」などの不安の声があったことで、一層慎重に進めるため着工を見送った。予算は本年度に繰り越したが、引き続き本年度も関係する由良町漁協、紀州日高漁協由良浦支所、比井崎漁協、地元企業などへの事業説明を行っていく方針だ。こういった関係で担当課では「来年度にも着工したいという思いはあっても、地元の説明や理解を得てからになるのでまだ何とも言えない」と慎重な姿勢をみせている。ただ、いつ発生するか分からない津波対策として地元住民や議会からは早期整備を望む声が高まっている。