日本を代表する映画俳優、高倉健さんが今月10日に亡くなり、18日の発表からいまも連日、生前の人柄を偲ぶニュースとともに、主演映画が追悼放送されている。同じ作品の同じシーンを何度も目にするが、そのたびに見入ってしまう。
 いまや「スター」という言葉もほとんど死語となっているが、中高年の日本人にとっては健さんこそが最後の映画スターだった。私生活もスクリーンの中の役柄そのまま、寡黙で常に折り目正しく、共演者はもちろん、現場スタッフ全員に気配りを忘れなかった。一連の報道の中で、「自分も男としてこうありたい。そう思わせる最強の理想だった」とのファンのコメントが印象深い。
 こういう人間でありたいという思いは、映画やドラマの作り手にとって最も重要な要素である。監督や脚本家は頭の中で何人もの登場人物を歩かせ、互いに出会わせ、それぞれに何かを考えさせ、言葉をしゃべらせる。主人公はどんな職業でどんな仕事ぶりなのか、家族構成、経歴、趣味、性格を入力しながら、物語の進行とともにそのイメージに合う役者を起用する。
 ドラマ『北の国から』の脚本家倉本聰もしかり。板前、警察官、医者...どんな主人公の人生を描くにせよ、「あんな人がいてほしい」という強い思いがなければ作品は生まれないという。健さんが演じた『冬の華』のあしながおじさんも、『駅 STATION』の射撃の名手の刑事も、高倉健を念頭に描かれた「男の中の男」だった。
 撮影が終了すると、スタッフとの別れの悲しみを忘れるように旅に出て、その先で出会った市井の人に思いを寄せ続けた健さん。素晴らしい人との出会いが自分を成長させてくれたという。もっともっと長くいてほしかった。       (静)