岐阜県飛騨市の神岡町は、かつて鉱山で栄えた小さなまち。ネットの観光ガイドには、「家々を縫うように続く路地、懐かしい駄菓子屋、前掛けを締めて配達に回る酒屋さん...。『昭和』を感じさせてくれる街」とあるが、とりたてて自慢できるような観光資源が何もないのだろう。日本人の郷愁を誘う古い街並みが売りらしい。
 ところが、このまちには日本が世界に誇る施設がある。宇宙物理学でわが国がぶっちぎる素粒子の分野で、ニュートリノを検出するための巨大な装置「スーパーカミオカンデ」がそれ。鉱山跡に5万㌧の超純水を蓄えた巨大なタンクをつくり、1万1200本の光電子倍増管で大気中や太陽から届く素粒子を捕まえる。
 しかし、自然界のニュートリノがこのタンクを通過するのは極めてまれなため、約300㌔離れた茨城県東海村のJ―PARC(大強度陽子加速器)にある素粒子生成装置から人工のニュートリノビームを打ち込み、ニュートリノの謎を解明するための実験が人知れず行われている。
 民主党政権時代、事業仕分け人の女性議員がスパコン予算を削減する際、「世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃだめなんでしょうか」と満面のどや顔でのたまった。おっしゃる意味が分かりかねるが、世界一だからこそ海外から優秀な科学者が集まり、新たな技術が生まれる。世界一の先端科学は何がなんでも首位を守らねばならない。
 ニュートリノはまだ謎だらけで具体的な展望もないが、100年先の未来に向け、いくつもの謎を分担し、何十年もかけて解明するのが科学。世界遺産がなくても、大河ドラマの舞台にならなくても、世界一の研究、施設がまちの活力を生み、「日本を取り戻す」 力となっている。 (静)