「え、芸術祭を見に来たんじゃないんですか。今年になって、芸術祭以外で来られた観光客の方に初めてお会いしました」。先月、短い夏休みをもらって四国をうろついた際、高松の小さなラーメン屋の大将と話をしながら、はるばる香川まで来た目的が開催中の国際芸術祭ではないことを知って驚いた大将の言葉。芸術祭とは、瀬戸内の島を巡る3年に1度の瀬戸内国際芸術祭のことだった。
 この夏、直島では建築家安藤忠雄のミュージアム、前衛芸術家草間彌生の巨大なカボチャ、美術家大竹伸朗の銭湯などがあり、小豆島ではビートたけしとヤノベケンジのコラボ作品、伊吹島では和歌山出身のピアニスト・美術家向井山朋子のインスタレーションが人気を集めた。
 絵画も彫刻も、芸術とは「分かる人にしか分からない」世界であり、とくに瀬戸内のような現代アートの作品はどこのだれがどういう理屈でどう評価したのか、一見、子どもの落書きや積み木遊びと紙一重のものも少なくない。1つの評価がより高い評価、さらに高い評価へ、まるで株価のように見えない力が作用し合い、実態のない価値が上がり続ける。
 アートはやはり、頭で理解するものではなく、目で見て直感的に感じるもの。毒キノコのような巨大なカボチャを見て、「気色わる...」と思うか、「クールじゃん」と思うか。分からないものを「分からん」とあきらめず、無理に理解しようとした瞬間、現代アートのコマーシャリズムにはまってしまうのではないか。
 瀬戸内国際芸術祭は10月5日から秋開催が始まる。どの島で何を見るか、フェリーの時間も確認のうえ、計画をきっちりと立て、気軽にアートを感じてみてはいかがでしょう。 (静)