本年度第1回市民教養講座の講師は「脳トレブーム」の火付け役、東北大学教授の川島隆太氏。昔のことは覚えていても先週のことが思い出せないと悩んでいる筆者には、大変興味深い講演であった。
 まず加齢を否定的に捉えないという視点が嬉しい。80歳の人が85歳になるのは5歳分老いたのではなく、5年分の経験を重ねたと考える。何歳だろうと使い方次第で脳は成長可能と近年分かったそうだ。今後必要なのはアンチエイジングではなく、賢く年をとるスマートエイジング。日本語名を「華麗なる加齢」と提案して「カレーのようだ」と没になったなど楽しい話術で語ってくれた。
 賢く年をとるためには①脳を使う②体を動かす③バランスのとれた栄養④人とかかわること。脳を使うといっても難しいことではなく「読み書き計算」。文章を音読する、自分の手で書き写す、2+3など簡単な計算を解く。脳の中のある部分は、パソコンや携帯電話の操作などでは働かず、手で文字を書く行為で働く。使うことでのみ鍛えられるのは、体も脳も同じだ。
 認知症患者がこの脳トレで改善した例も紹介された。毎日少しずつ続けることで脳に「基礎体力」が備わり、それをベースにもっと高度なコミュニケーション力の回復を促す。肝心なのは確実に満点をとれる問題を渡すこと。決してプライドを傷つけないよう配慮する。事前に状態を把握し、個々に応じた問題を用意するため4000パターンもの問題が必要になる。そんなきめ細かな人間観察のお陰で成果は出たのだろう。
 脳も他の器官と同じく生きるための大事な道具。錆びつかせず磨くことでうまく機能し、使いこなせば持ち主の心も輝く。それこそがトレーニングの目的だ。    (里)