5月15日付の本欄担当になったのを機に、5・15事件を勉強してみた。 昭和7年の海軍青年将校による犬養毅首相暗殺事件。 「話せば分かる」 「問答無用」 のやりとりは有名だ。
◆写真の犬養氏は立派な白ひげで、 飄々として胆の座った人物に見受けられる。 若い頃は報知新聞の記者で、 西南戦争を取材したという。 辛亥革命を支援し、 亡命中の孫文を生家にかくまったこともある剛胆な人物。 満76歳にして内閣総理大臣に。源平時代の老武将になぞらえ 「昭和の実盛」 と呼ばれた。
◆その日、 医師に 「あと百年は生きられそうじゃわい」と言っていたが、 夕刻青年将校らが官邸襲撃。 氏は応接室に案内し、 「話せば分かるじゃないか」と対話を試みたが興奮状態の将校に「問答無用」と狙撃される。彼らが逃走したあと駆けつけた女中に、気丈に「今の若い者をもう一度呼んで来い。よく話して聞かせる」と言ったという。
◆この凶行により、 政党政治は終戦後までストップする。 当時の世論は政治不信から将校らに同情的で、比較的緩やかな刑となった。 それが4年後の2・26事件を引き起こし、 軍国主義へなだれ込んでいったとする見方もある。
◆ちなみにその日は喜劇王チャップリンが官邸を訪れる予定だったが、 急に大相撲が見たいと予定を変更、 難を逃れた。 葬儀ではチャップリンの弔電が披露され、 参列者は驚いたという。 奇しくも4年後再び来日した時、2・26事件が起こる。
◆時代の流れを見定め、 よりよい方向へ舵をとる。 それは歴史を学ぶ目的の一つ。 マクロの視点とミクロの視点で時代を見極めるために、 学校では詳しく習わなかった近現代史に真摯な関心を持つべき時ではないかと思っている。(里)