1枚の写真が人の心を打つことがある。先日開かれた紀州梅の郷救助隊とみなべ町消防団らの研修会で、東日本大震災の報道写真を映像化したビデオ「3・11メッセージ」が上映された。停電のためにろうそくの明かりで一夜を過ごす家族、我が子の遺体を確認して泣き崩れる母親などを撮影した43枚で構成された内容。写真以外にはその状況を説明する文字と音楽だけ。しかし、それだけで写真に込められている思いがひしひしと伝わってくる。
 ビデオは毎日新聞社が協力し、和歌山大学防災研究教育センターが制作。被害の状況を伝えることよりも被災者の心を表現する内容の写真が使用されている。企画・プロデュースした今西武客員教授は「従来の防災啓発活動に欠けている新しい視点、人の心に響く強いメッセージ力をもった映像を作成し、人の心を動かすことを基本ベースにつくった。心が動けば行動につながる」と説明している。
 いま、南海トラフの巨大地震発生がいわれ、各自治体や地域などが対策に取り組んでいる。避難路をつくったり、公共施設を高台へ移転することも検討しており、防災に強い地域環境づくりが進められている。もちろん、そういうハード面も大切だが、まずは住民の意識改革が必要だ。
 研修ではビデオ上映後に梅の郷救助隊の尾崎剛通隊長が「ビデオを見て泣くやさしさとそうでない冷静さが必要」と話した。「冷静さ」とは津波の到達時間など計算された上に成り立つ手立て、「やさしさ」とは家族や親しい人を失いたくないという心を意味するのであろう。自分が守らなければならないものを再認識すること、それが防災の原点といえよう。     (雄)