「こんな話、聞いたことがない」。日高川町、道成寺所蔵の南北朝時代の制作とされていた「釈迦如来坐像」は、本体が鎌倉時代、両手だけが奈良時代の制作だったことが分かった。年輪年代測定で判明したのだが、本体より手が古いなんてありえないという。なぜ奈良時代の両手に取り替えられていたのか。専門家らは「寺創建当初の元の仏像のものを残したい、伝統を後世に伝えたいとの思いがあったのではないか」と推測する。
 道成寺で古いものが出てきたと言えば、千手観音菩薩像が有名。この機会に紹介したい。寺には3体の千手観音菩薩像がある。宝仏殿にある国宝の現本尊、本堂に南向きに祭られている初代本尊、もう一体は本堂北向きの「北向き観音」と呼ばれる秘仏。初代本尊は、完成から百数十年後ぐらいに倒れて壊れたと見られ、代わりに現本尊が作られた。秘仏の千手観音が作られたのは1378年になってから。その中に初代本尊を収めて二重にした状態で祭られていたが、この事実は何と昭和61年になるまで知られていなかった。
 千手観音は我々をたくさんの手と道具で救ってくれる仏様。寺にちなむ安珍清姫の物語も古典芸能も悩みの多い我々のために差し伸べている手の一つだという。33年に一度開帳される秘仏は、一緒に見た人との心の絆を深める。「七不思議」といわれるように道成寺には謎がいっぱい。まだまだこれからも新たな発見、新事実判明があるかも知れない。来年は巳年。蛇と言えば道成寺。新春には初詣イベントが開催される。そんな不思議な道成寺からスタートを切ってみてはいかがですか。不思議な力で幸せな1年へと導いてくれるかも知れません。    (昌)