市内御坊 (西町)、 元保田楽器店の保田かほるさん (87) 宅に、 「シャボン玉」 「証城寺のたぬきばやし」 「赤い靴」 などで知られる童謡詩人野口雨情直筆の掛け軸が保管されている。 昭和14年1月、 先代の店主でかほるさんの夫の父、 故保田信郎さんの代の時に 「御坊小唄」 作詞のため来坊していた雨情が同店を訪れ、揮毫したという。保田さんは「大事に保存していきたいと思います」と話している。
 「御坊市史」によると、「御坊小唄」は昭和13年に発足した日高芸術協会が日高新報や紀南新聞紙上で歌詞を公募。本紙創刊者の井上豊太郎氏らが審査したが目立った秀作がなく、当時童謡の作詞などで活躍していた野口雨情に依頼。14年1月に来坊してしばらく滞在、「御坊小唄」を作ったという。「紀伊の御坊はなつかしところ/鐘のひびきも朝夕に」「御坊別院銀杏の陰に/屋根が見えますほのぼのと」など17番から成る小唄で、現在も日高川踊り保存会によって踊り継がれている。
 保田さん宅の掛け軸にはこの歌詞ではなく、「雲に隠れて雨ふり月は 浜の苫屋(とまや)の窓のぞく」と、煙樹ケ浜の情景をうたった言葉が書かれている。その時「御坊小唄」の全歌詞も巻紙に書いてくれたのだが、今では保管場所が分からないという。保田さんは「野口雨情さんが訪問してくれた時のことは、義父からよく聞きました。長い巻紙に長い歌詞をすらすらと書いてくれたそうです。私が小さいころの煙樹海岸は広々と見晴らしがよく、作業をするための粗末な苫屋があったのを覚えています」と懐かしそうに話している。