生来の運動音痴でスポーツと名のつくことにはおよそ縁がないが、観る方は結構好きだ。子どもの時から幾つもの五輪を見てきた
 ◆東西諸国のボイコット合戦となったモスクワ五輪とロス五輪では、大人ってなんて大人げないことをするんだろうと思ったものだ。ロスでは好きなミュージシャン達が音楽を担当していたことが単純にうれしかったが、初めて開催地に黒字をもたらした画期的な大会だったと最近知った。個々の選手だけでなく、時代背景や世界情勢も大会に物語を与える
 ◆五輪に関する本で特に印象深いのは沢木耕太郎著「オリンピア ナチスの森で」(集英社)。1936年、ベルリン大会。ヒトラーが国威を示すための五輪であったと一般には思われているが、そんな外部事情に左右されない選手達の競技への真摯な思いを、沢木氏は長年の綿密な取材で浮かび上がらせた
 ◆ベルリン五輪といえば、「前畑頑張れ」の伝説的ラジオ中継で知られる前畑秀子選手(橋本市出身)。女子水泳で日本人として初めて金メダルを手にした。足を痛めても毎日20㌔泳ぎ「勝つぞう!」と叫んでいたという大舞台に至るまでの「頑張り」も、沢木氏の筆により生き生きと再現。和歌山県民としては記憶しておきたい物語だ
 ◆7月27日(日本時間28日)に開幕したロンドン大会は、近代五輪として30回目になる。和歌山県の田中兄弟らが出場した男子体操団体では、審議の結果審査が一転して銀メダル獲得が決まるなど、筋書きのないドラマならではの展開もあった
 ◆刻一刻と新たな歴史が刻まれる、時としてそんな高揚感をも味わわせてくれるのがスポーツという物語。実践とは縁のない立場ながら、憧憬を込めて見守っている。(里)