「八月の御所グラウンド」で1月に直木賞を受けた、万城目学の今から14年ほど前のエッセイ集をご紹介します。

 内容 京都での学生生活中、鴨川沿いを風に吹かれて自転車で走りながら、ふと「この気持よさを文字に書いて残さねば」と思ったのが小説を書き始めるきっかけだったという著者。卒業後は大阪で化学繊維会社に経理として勤めながら、早々と家へ帰っては明日の作家を夢みて執筆にいそしむ日々。しかし東京本社に転勤となることを知り、「仕事が忙しくなると書く時間がなくなる」と一大決心して退職。貯金で食べながら「2年間」と期限付きで小説家目指し執筆三昧の日々に。タイムリミットぎりぎりで、京都を舞台とした「鴨川ホルモー」という怪作にして快作を書き上げ、見事プロデビューを果たすのだった。この経緯をつづった他、ダウンタウンの「珠玉のコント」の数々に心をとりこにされた「兄貴」、椋鳩十の名作絵本「モモちゃんとあかね」を思い出させる「ねねの話」、10年単位で同じ間違いをするという体内時計の話など収録。

 実をいうと、「鴨川ホルモー」「プリンセス・トヨトミ」ではオリジナリティに感心させられたのですが「バベル九朔」がさほど面白く感じられず、エッセイ集を買ったものの読まずに積んだままになっていました。しかし今回の直木賞受賞作が大変面白かったので本書を読み始めてみると、これがまた軽妙な書きぶりと発想がなかなか面白く、「京都では学生の自転車のわだちが夜になると光りだす」という「都大路で立ちこいで」の1編など、まんまとだまされながらも感動すら覚えました。

 「2年間頑張って小説家を目指し、だめなら諦める」という計画を立てる人は多いかもしれませんが、それで実際に小説家になってしまうほどの人はやはり非凡なものがあるのだなと思わされます。(里)