近年、「親ガチャ」という言葉が言われるようになりました。子どもは生まれてくる際に親を選べず、その子がどんな人生になるかは親が持つ家庭環境によるという意味。お金持ちの家庭の子は好きなことをさせてもらい、欲しい物も買ってもらえる。貧しい家庭の子は我慢を強いられ、欲しい物も買ってもらえない。当たり外れがあるおもちゃのガチャガチャに例えられた言葉です。家庭環境だけではなく、容姿や能力など、どのような親に生まれてくるかはもはや運次第で、若者の間で人生が思い通りにいかない原因は「親ガチャにハズれたから」と例えられるようになりました。

 この本は今から約50年後の世界を描きます。この世界では親の意向に関係なく、自分が生まれるか・生まれないかは胎児自身が決定し、生まれる約1カ月前に出生の合意をとらなければならないという「合意出生制度」が確立された社会です。胎児に「出生意思確認(コンファーム)」を受けさせることが必要となり、胎児が出生を拒否(リジェクト)すれば、この世に生まれることはなく、万一親が出産すれば「出生強制罪」という罪に問われるようになります。

 主人公の彩華は、パートナーの佳織と同性婚し、2人の卵子を結合させた「接合卵」を子宮に着床させる手術を受け妊娠。合意出生制度には賛成で、コンファームも必要なことだと考えていました。しかし、コンファームではお腹にいる子からリジェクトをされてしまいます。彩華はどのような決断を下すのか、佳織とどのような道を歩むのか。

 所得が上がらず、生活水準の上昇が見込めないことから、現代の若者は結婚・子を持つことを望んでいない人が増えています。物語の設定が妙にリアルで、現実味すら感じられました。生まれてくるとは何か、幸せとは何か考えさせられる一冊です。(鞘)