世界情勢を解説する池上さん

 2023年度第4回市民教養講座が20日、御坊市民文化会館大ホールで開かれ、ジャーナリストで名城大学教授、東京工業大学特命教授の池上彰さんが「ニュースで世界を見る」をテーマに、現在の世界情勢を解説した。世界に衝撃を与えたパレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとハマスの武力衝突については、根本の原因にまでさかのぼって対立の構図を分かりやすく説明した。

 世界を理解するキーワードは「宗教」とし、まずガザでの衝突について「2万5000人といわれるハマス(イスラム国家樹立を目指す武装組織)の戦闘員を『全滅させる』と言い、これまで一般市民を含む1万5000人の犠牲者を出したイスラエルを、なぜ欧米は強く非難しないのか」と問題提起。背景にあるキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の関係を説明していった。

 キリスト教の成立と普及の過程で、ヨーロッパ諸国のキリスト教徒には「キリストを殺した人物の子孫」としてユダヤ人への差別意識が生まれ、第2次世界大戦時にはナチスドイツが600万人ものユダヤ人を殺害。その贖罪(しょくざい)意識を欧州諸国、特にドイツは強く持っており、戦後、ユダヤ人(ユダヤ教徒)の国家であるイスラエルが建国される時には応援した。しかし、パレスチナに元々住んでいたアラブの人々(パレスチナ人)は激しく反発し、イスラエルとの間に戦いが繰り返されることになった。当初ヨーロッパで迫害されたキリスト教が広く信仰されるようになった背景には疫病の大流行があり、日本で聖武天皇が仏教を広めた当時、やはり疫病が流行していたことも紹介した。

 11月のアメリカ大統領選については、「もしトランプが当選したら」という世界の人々の危惧を、数年前の人気小説「もし高校野球の女子マネジャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の略称「もしドラ」にかけて「もしトラ」と表現。もしトランプが当選したら、告訴されている自分自身に恩赦を与え、バイデンに復讐し、各国から米軍を引き揚げさせてメキシコ国境を守らせ、あらゆる輸入品に関税をかけ、温暖化対策をストップさせるなど多くの問題を推測し、「トランプは金正恩が大好きで、プーチンを尊敬している。相手ができるのは安倍さんとドイツのメルケルだけだったが、メルケルは引退し、安倍さんももういない。米国の大統領選がどうなるかは人ごとではないのです」と興味をそそった。

 「今の話の中には皆さんが学校の世界史で学んだことも出てきたと思いますが、断片的な知識は点に過ぎない。つながって線となり、面となることが大事。教養とは知識の応用力、運用力です。幾つになっても好奇心を持ち続ければ、いつまでも若さを保てます。子や孫、ひ孫に勉強する姿を見せることで、勉強の楽しさを伝えることもできます」と、生涯学び続けることを呼びかけた。

 冒頭では能登半島地震にも触れ、避難後の生活について「AKB」ならぬ「TKB48=トイレ、キッチン(食の環境)、ベッド(睡眠環境)を48時間以内に整えること」が大事とアドバイス。「和歌山の皆さんも南海トラフ地震に備えてください」と呼びかけた。