ベテラン脚本家、山田太一さんが他界された。筆者と同世代なら「ふぞろいの林檎たち」が代表作かもしれないが、筆者は中2の1年間、NHK大河ドラマ19作目「獅子の時代」にハマっていた◆訃報を伝えるTBS系「ニュースキャスター」で、代表作を示すフリップに「獅子の時代」がないと思ったら、司会の1人三谷幸喜さんが「『獅子の時代』も凄かったですよ。普通は歴史上の人物を取り上げるんですが、菅原文太さん演じる架空の人物を主人公に1年間、スペクタクルなドラマをやってました」と筆者の思ったことを全部言ってくれた◆菅原文太演じる会津藩士、加藤剛演じる薩摩藩士という架空の人物2人を主人公に、価値観も国のあり方も180度転回する激動の時代を舞台にして、劇的に物語は進む。ドラマにあれほど夢中になったのは初めてだった。高校で日本史を教えていた父も大河は毎回見ていたが、その年は初めて原作本を買った。風邪か何かで学校を休んで寝ていたが、父が書店の袋から出した本を見て「えっ!」と布団から飛び出たのを覚えている◆原作小説があるわけではなく、脚本家山田氏の完全オリジナル。登場人物のセリフ、仕草、背景で物語を表現。心情はカッコ内にしっかり書いたうえで、役者と演出家に託す。スリリングで高度な芸術表現である。この激動の時代を、著名人でなく市井の人物の視点で描くところが実に山田さんらしいとのちに思った◆長年の疑問がある。会津藩士銑次が金田賢一演じる弟分の弥太郎を田原坂で亡くす場面、遺体を抱いて「バカタレ! 弥太郎のバカタレ!」と叫ぶが、脚本にその台詞はなかった。文太さんのアドリブか、検索しても真相は分からない。ご存じの方がおられたらお教え頂ければ幸甚である。(里)