「この子を産んで本当によかった」 長男陽向君を抱っこする西川さん(御坊市の自宅の庭で)

 NHKBSプレミアム/BS4Kで6日午後9時から、生田斗真と多部未華子が夫婦役を演じる特集ドラマ「幸運なひと」が放送される。夫ががんの宣告を受け、子どもを持つかどうか悩む夫婦を描いたストーリー。ドラマの後の舞台裏ドキュメンタリーでは、がんで夫を亡くし、「妊孕性(にんようせい)温存治療」で子どもを授かった御坊市の西川まりえさん(32)が出演。亡き夫や子を持つことを決めた思いを語る。

 「幸運なひと」は、がんの宣告をきっかけに、仕事のことや子どもを持つことなどに真剣に向き合う夫婦を描いている。ドキュメンタリーはドラマに続いて10時29分から放送で、多部さんの西川さんへのインタビューなどが予定されている。

 西川さんは神戸大学在学中、夫となる鄭信義(ちょん・しに)さんと出会い、2018年2月に入籍した。西川さんは同大学の非常勤職員、鄭さんは整体師としての生活を過ごす中、19年3月、鄭さんの大腸がんが発覚し、余命2年と告げられた。かねて子どもが欲しいと願っていた2人は、妊孕性温存治療による体外受精を行うことを決めた。

 妊孕性温存治療は、抗がん剤治療などで生殖機能が低下する前に、卵子や精子などの凍結保存を行う治療で、翌20年4月から体外受精の取り組みを始めた。

 体外受精では、2回目の挑戦で受精卵の成長が順調に進み、同年7月に妊娠した。西川さんの妊娠は鄭さんの生きる気力となり、余命2年を2カ月過ぎても存命し、21年5月5日の陽向(ひなた)君誕生の際は出産に立ち会った。しばらく家族での生活を過ごしたが、10月に鄭さんの体調が悪化し、12月1日の午後5時ごろ、「今までありがとう。陽向を元気に育ててくれ」という言葉を残し、39歳の若さで息を引き取った。

 西川さんは「1人で育てていくことに不安はありましたが、夫と一緒に陽向の誕生を迎えることができてよかった。子育ては大変なこともありますが、喜びをもらうことの方が多く、本当によかったと思います」と話す。妊孕性温存治療については「まだ知らない方も多いと思いますので、もっと多くの方に、がんになっても子どもが持てることを、番組を通じて知ってもらいたい」と話している。