今回紹介するのは推理作家綾辻行人の館シリーズ作品「迷路館の殺人」。館シリーズは、綾辻による長編推理小説のシリーズ。寺の三男坊の素人探偵・島田潔が、今は亡き建築家・中村青司が建築に関わった建物に魅せられ、その奇怪な館を訪ねていく。そこでは決まって凄惨な殺人事件が起こり、島田はその事件解決に奔走し、犯人のトリックを暴いていく。1987年の「十角館の殺人」から始まり、迷路館は3作目となる。

 舞台となる迷路館は日本推理小説界の老大家と言われる宮垣葉太郎が所有する館。そこでパーティーが開かれることとなり、4人の推理作家をはじめ、評論家、編集者、推理小説マニアの島田などが招待される。ところがパーティー当日の朝、主催の宮垣が自殺した。がんを患っていた宮垣は延命することはせず、自ら命を断ったが、カセットテープに遺言を残した。そこには宮垣の莫大な遺産の半分を招待した4人の作家の一人に与えるというもの。数日間、屋敷に滞在し、そこで宮垣が決めたルールに則った作品を作り、他に招待された評論家などがそれを審査するというもの。宮垣の突然の死に戸惑いながらも、競作を始める作家たち。そんな中、作家の一人須崎が遺体で見つかる。須崎の部屋のワープロには書きかけの小説があり、小説の内容が須崎の遺体の状態と一致。それは恐ろしい連続殺人の始まりに過ぎなかった。

 推理小説好きにはたまらない要素が詰め込まれた作品で、テンポもいいので、一気に読み進めることができます。巧妙なトリックを見破ろうと、どうしても意識してしまい、冒頭から小説の中に小説が出てくるという怪しい展開など、伏線を見逃さないように注意していたのですが、すっかり騙されました。巧妙なトリックと文章に隠された秘密、本当に迷路に迷い込んだ気分になります。(城)