2018年に他界された、「だるまちゃんシリーズ」や「からすのパンやさん」で人気の絵本作家かこさとしさんが大人のためにみずみずしい詩情あふれる文で書いた珠玉のエッセイをご紹介します。昨年、文庫化されました。

 内容 大正15年(=昭和元年、1926年)生まれの著者。7歳まで過ごした自然豊かな福井で、靴など脱いではだしになり、地べたに線を引いたり道端の草花を使ったりして思う存分に遊び回ってきた。

 子どもは遊びの天才で、指相撲や腕相撲、押し相撲、尻相撲、片足相撲など「相撲遊び」だけでも数えきれないバリエーションがある。こうした遊びから日本人の相撲好きを好戦的ととらえる困った教育者がいるが、なんのことはない、子供は仲良しの子達と手を握り合ったり、犬の子や猫の子のようにくっつき合ってごろごろするのがただもう本能的に楽しいのだ。

 七夕のためには、都会では小さな笹が売られているが、福井では、その年に生えた屋根より大きな竹を使って、短冊や飾りを百もつるした。何日も前から、大人は和紙でこよりを作り始める。それは簡単そうに見えて力の入れ具合や角度が難しく、子どもも真似してやってみるがなかなかうまくいかない。一方で、願い事を筆で書くのが子どもの大事な仕事だ。親は「なんでこんなに右上がりになるかな」など思いながらほほえましく見守る。それは親子が一つのことに取り組みながら何かが醸成されていく、濃密な時間だった。7日の晩にはもう、大きな竹を子どもたちみんなでかついで燃やしに持っていく。帰りは大きな声で歌い、「七夕」を満喫するのだった…。

 子どもの頃の遊びの思い出は、一度話し出すと盛り上がって止まらない面白さがあります。完全なインドア志向の子どもだった私も、高く蹴り上げられたボールを追ってみんなで走り、ワンバウンドさせて取った子がまた高く蹴り上げるという単純な遊びがすごく楽しかったことを覚えています。

 縄跳びの遊び歌、紙飛行機、木の枝のパチンコ作り、ガラスのおはじきなど登場する遊びは実にさまざま。身近な植物との付き合い方の描写も魅力で、この辺では「つんばら」というチガヤの若い穂を裂いてほの甘い中身を食べながら遊ぶ場面など、思わず食べてみたくなります。この辺では「ゴンパチ」というイタドリの若い茎を折って中身を吸いながら歩くのが子どもの大事な水分補給だったというのも驚きで、ツツジの蜜を吸った子どもの頃を思い出しました。

 郷愁を誘うだけではなく、人間が子どもとして生まれて大人になっていくために、夢中になって遊んだ記憶が体にも心にも重要な養分となって組み込まれていると納得させてくれます。文章も素晴らしく、一編一編が叙事詩のよう。著者は本書で日本エッセイストクラブ賞、久留島武彦文化賞を受賞しました。   (里)