北京冬季五輪のスキージャンプで、不可解なスーツ規定違反という不運に見舞われた高梨沙羅選手が、復帰戦となった今月のW杯で優勝し、満面の笑みを見せてくれた。オリンピック後はW杯の場に立つことは想像できなかったといい、「たくさんの人のメッセージに励まされ、支えられました」と感謝していた。言葉というのは時に人を勇気づけ、励まし、背中を押してくれる。誰しも言葉に救われた経験があるだろう。発した人の心が、思いが言葉として人に伝わるからなのだろう。時に厳しい言葉も、発奮を促す思いがあれば伝わる。言葉は人の思いを乗せる。

 その言葉によって深く傷つけられる人もたくさんいる。SNSでの誹謗中傷は最たるもので、大きな社会問題だ。名前を明かすこともできない匿名希望者が言葉で過激に攻撃し、被害に遭った人が命を絶ってしまうこともたびたび起こっている。2019年に東京池袋で起きた高齢運転者による暴走事故で、妻と愛娘を亡くした遺族の男性が、匿名の投稿で中傷を受けたニュースに触れ、心が痛んだ。最愛の家族を失った悲しみに、心ない言葉を浴びせられ、何度被害を受けなければならないのか、こんな世の中でいいのかとの思いは募るばかり。

 池袋暴走事故では、加害者に対する痛烈なバッシングもあったが、それが「苛烈な社会的制裁」となり、加害者の量刑が減刑される理由の一つとなった。遺族感情を察すれば首をかしげてしまう。今の世の中のシステム、このままでいいのだろうか。まず、SNSでの言葉の暴力に対する法整備が必要だろう。何より人として、人を励ます言葉を使いたいと強く思った。

(片)