普段、移動はもっぱらマイカーで、電車やバスに乗ることはほとんどない。そんな人が多い田舎の小さな新聞でも、鉄道に関するニュースはちょいちょいある。つい先日も、JRの人気長距離観光列車「銀河」の記事を掲載した。

 鉄道といえば、いわゆるマニアと呼ばれるほど好きな人がいる。国鉄時代の古い車両や最新モデルを写真に収める「撮り鉄」、自分自身が実際にその列車に乗って旅を楽しむ「乗り鉄」はよく耳にするが、「音鉄」というジャンルは知らなかった。

 音鉄とは、列車が走る音や踏切の音、駅のホームのアナウンスや発車のメロディなど、列車と周囲の音を楽しむ人たちのこと。加速するモーター音、最近は地域の文化にもなりつつある駅メロなど、高性能な集音マイクで録音する「録り鉄」もいる。

 「音鉄―耳で楽しむ鉄道の世界」の著者片倉佳史さんが録音を始めたきっかけは、廃線の危機にあったローカル線の踏切。そこは「カンカンカン…」という電鐘式の警報音が使われていて、その懐かしく寂寥感漂う音が消えてしまう前に、記録しておきたいと考えたのだという。

 モータリゼーション、人口減少、ネット社会の進化など時代とともに、地方の小さな鉄道やバスはどんどんその姿を消しつつあり、近年はコロナショックで大手でさえも大きく業態を変えつつある。身近にあった当たり前の景色、音がなくなるのはやはり寂しい。

 この流れはマスコミの世界も同じ。新聞について、鉄道のようなマニアがいるとは聞いたことがないが、小紙は90年以上、この地に根を張って新聞を発行し続けてきた。これからも鉄道に負けぬ地域の文化として、記者が撮り鉄、音鉄となってまちの情報を発信していきたい。(静)