御坊市立図書館が主催した初めてのイベント「読書会」を取材した。テーマに沿ったお勧めの本を参加者が互いに紹介し、自由に話し合う。テーマは「おとなな本」◆残念ながら時間の都合で初めの3人しか聞けなかったが、登場した本は少子高齢の日本の行く末を論じた「未来の年表」(河合雅司著)、宮本輝の大作「流転の海」の第9部(最終巻)となる「野の春」、100年前のロシアの探検記「デルスウ・ウザーラ」(アルセーニエフ著)と実に多彩。他にリンドバーグ夫人のエッセイ「海からの贈り物」、話題のノンフィクション「妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。」(ズュータン著)などなど、ジャンルもまったく重ならない◆発表では一人一人の印象に残る言葉を聞くことができた。「野の春」の発表では四苦八苦の「四苦」である生・老・病・死について考えさせられたとのことで、「何が最高かは千差万別。人それぞれ、みんな自分の100点満点を目指さなければ」。「デルスウ・ウザーラ」のタイトルはロシア先住民族の猟師の名。筆者はまったく聞いたことのない書名だったが、参加者の一人が「映画になってなかった?」と聞くと、別の参加者が「黒沢明」。そして「黒沢の映画の中では評価が低い」など、たちまちいろんな情報がその場で補足されていったのには感じ入った。ネットでいろんな情報を得るのとは味わいが違う◆読書とは孤独な営みと思われがちだが、決してそうではない。本を通じて、その著者だけでなく著者が出会ってきた幾多の物事や人々と出会う、実り豊かな作業である。今回の「読書会」は、さらに生身の「他者」と本を通じて言葉を交わすことで世界を幾重にも広げていく場となっていた。ぜひまた開催していただきたい。   (里)