2年前、中辺路町の高原という里山の景色に魅せられ、東京から移り住んだ西村さんという方と出会い、夫婦二人三脚のマイホームづくりを取材させてもらった。その家が完成したと聞き、昨日、再びお邪魔した。

 御坊から車で1時間半。ガードレールもない細く曲がりくねった山道を走り、標高340㍍の斜面にその家はある。いわゆる玄関という靴を脱ぎ履きする空間はなく、家族もお客さんもリビングの大きなガラス戸から出入りする。

 父親が転勤族で、大学を卒業して大手食品メーカーに就職し、家族とともに中国、カンボジア、インドなど外国で生活した。同僚らの反対を押し切って54歳で早期退職後、趣味で熊野古道を訪れた際、高原の絶景に出合った。

 会社を辞めて初めて、自分の家を持つことを考えた。土地の購入や地目の変更など工事が始まるまでも苦労の連続で、家が建つまでの空き家を借りるにも、地元の人に警戒されているのを感じたという。

 電気工事の資格を取り、住宅建築・設計の入門書や専門書を読みあさった。設計支援ソフトCADを使って図面を作り、みなべ町のあらき工務店の新城繁代表にアドバイスをもらいながら、昨年8月、約2年半がかりでついに完成した。

 古道を訪れた人が家を見に来ることも。妻と作業中のある日、ニュージーランド人のカップルに声をかけられ、仕事を早期退職し、東京から移住して手作りで家を建てていると説明すると、とびっきりの笑顔で祝福されたという。

 「海外赴任のころは外国のいろんなところを見てやろうと思っていましたが、いまは逆に海外の人に、日本のいいところを見てもらいたいですね」。人とつながりつつ、自らの人生を生きる姿がまぶしい。(静)