2019年版「このミステリーがすごい」の国内編1位に輝いた本。前作から14年ぶりの新作で、私立探偵沢崎が主人公のシリーズ第6作を紹介します。

 物語 渡辺探偵社の沢崎のもとに現れたのは、紳士的な雰囲気をもつ男性望月。金融会社の支店長で、融資に関する調査として、ある料亭の女将の身辺調査をしてほしいというのが依頼だった。社内の派閥争いが絡んでいる案件なので、報告の連絡は極力避けてほしいと念を押され、1週間後にまた来ると言って着手金を渡し帰っていった。調査に取りかかった沢崎はすぐに、調査対象がすでに死亡していることを知り、望月に連絡を取ろうと勤務先の金融会社へ客を装い出かけて行った。そこでなんと強盗事件に巻き込まれてしまううえ、望月が行方知れずなことがわかる。依頼人に会うため行方を捜し始めるが、沢崎の調査は果たしてどんな真相を突き止めるのか。

 この著者の本も、沢崎探偵シリーズも初めて読みました。旧知の刑事や暴力団関係者はおなじみの登場人物のようですが、前作までを知らなくてもすんなり物語に入れました。主人公の沢崎は人をいらだたせるような物言いで、芝居がかっている気もしますが、いつの間にか気にならなくなっていました。喫煙シーンが多かったり、携帯電話を持っていなかったりと昭和のにおいがする独特な世界のなか、張り巡らせた伏線が、後半ビシバシと回収され、パーツが埋まっていくのは爽快です。ハードボイルドシリーズとなっていますが、沢崎も50歳を越えたからか、これまでの作品よりはマイルドになっているようです。何にもなびかず、冷静ですべてを見通したような探偵はちょっと出来すぎていますが、楽しく読めました。シリーズをさかのぼって読んでみようと思います。