2002年の日韓大会以来、4年に1度だけテレビで試合に釘付けになるミーハーサッカーファンである。ルールや戦術などろくにわからない素人だが、「勝負」というドラマが大好きなので、今回も日本代表の試合はすべてリアルタイムで観た◆ポーランド戦では、日本がボール回しの果てに敗北した瞬間からコロンビア―セネガル戦にチャンネルを変え、日本の戦いより1分だけ長かった試合を見守った。今にもセネガルがボールをゴールに蹴り込むのではと、心臓が口から飛び出しそうだった。釈然としなかったが、決勝トーナメントという大舞台で完全燃焼してもらうためと自分を納得させた◆8年前の南アフリカ大会直前、本田圭佑と、ドイツ大会後引退した中田英寿の対談を見た。中田が「自分は完全燃焼できないまま終わってしまったが、そうはならないでほしい」と話すと、その瞬間本田の顔が変わったようだった。そしてベスト16入りに貢献した本田。「完全燃焼」という言葉は筆者にとって、観戦するうえで重要なキーワードになった◆今大会では、特に長友佑都選手に注目した。著書の「ロシアでのワールドカップは忘れてきたもの、置いてきたものを取り戻す舞台だ。あまりにも大事な忘れ物なので、絶対に取り返さなくてはならない」との言葉が印象に残ったためだが、ベスト8のかかったベルギー戦まで4試合、長友は誰よりも走っているように見えた。ベルギー戦はあと数十秒で延長戦というところで逆転され終了。直後の取材は見ていられない思いだったが、長友は「全てを出した。悔いはない」ときっぱり言ってくれた。完全燃焼した顔だった◆「全力」はそれだけで誰かの力になる。勝負というドラマの行方以上に、熱くさせてくれた日々だった。(里)