天皇、皇后両陛下が福島県いわき市の復興住宅を訪問、原発事故の避難住民と懇談された。来年4月末に退位される両陛下にとって、在位中の東日本大震災の被災地訪問は今回が最後になるとみられている。
 震災翌年の4月、両陛下は宮城県南三陸町を訪問し、体育館で生活していた被災家族と言葉をかわされた。その家族は避難所の中で精神的に孤立していたが、両陛下の励ましを機に、再びつながりを持てるようになった。
 ジャーナリスト奥野修司氏によると、家族の三女は、津波で夫と夫の両親、3歳の一人娘を喪った。身を寄せ合っていた約200人の被災者の中でも、家族4人を亡くしたのは"特別"だったようで、周囲もかける言葉がなかったか。まるで避けるように人が離れていった。
 同じ避難所の仲間でありながら、自分よりはるかに深いであろう悲しみを想像すれば、なんて声をかけていいのかわからない。下手に話しかければ逆に傷つけてしまうかも。決して悪意はない、むしろ思いやりの気遣いが距離を生み、家族を二重、三重に落ち込ませた。
 真っ暗だった避難所を両陛下が訪れ、床に膝をつき、同じ目線で「復興までは長い道のりでしょうが、体調には気をつけてください。お孫さんが見つかることを願っています」と声をかけられた。これをきっかけに、避難所の人たちが手のひらを返したように、声をかけてくれるようになったという。
 振り返れば、自然災害の時代ともいえる平成の30年間。両陛下は常に国民の幸せを祈り、早期復興を願って全国の被災地を巡ってこられた。この逸話も東北だけの特別なケースではなく、私たちの日常にもいつもある。言葉がなければ、黙って肩を抱くだけで心は通じる。(静)