前回、NHK大河「おんな城主直虎」と対比させて映画の感想を書くつもりだったが、結果的に「直虎」だけで書ききってしまった。今回はその映画「メアリと魔女の花」の方を◆制作はスタジオポノック。2013年の宮崎駿監督引退宣言(ことし5月に撤回)を受け、スタジオジブリ制作部門解散ののち元スタッフらで設立されたスタジオである。「ジブリの血を受け継ぐ」と設立者はインタビューで語っていた◆ジブリファンなら既視感の連続を体験する。「魔法のほうきで空を飛ぶ女の子が出てくるのが『魔女の宅急便』を思い出させる」とかそういう次元の話ではない。地面から生えて急成長する植物群は「となりのトトロ」、宙に浮かび息づく魔法大学は「ハウルの動く城」、高い壁に沿った階段を駆け上るシーンは「千と千尋の神隠し」と随所にジブリの「遺産」が盛り込まれる◆「パクリ」などとは一線を画する、あえてなされたジブリ作品へのオマージュだろう。観ながら「原典」を考える楽しみもあり、ある意味ファンサービスかもしれない。プロデューサーのインタビューから自身を育ててくれたジブリ映画への熱い思い入れ、制作への真摯な思いが伝わってきた◆しかし創造のエネルギーは尊敬と感謝の念だけから生まれるものではない。本物の物語は、個人のエゴや暗い情念、やむにやまれぬ衝動などの中から力を持って生まれ出るのではないか◆「メアリと魔女の花」は絵の美しさ、画面の躍動感や疾走感、テーマの大きさ、どれも「ジブリの血を受け継いだ」作品として申し分ない。家族で楽しめる作品である。だが次作はつくり手のギラギラした個性をもっと前面に出してほしい。観客は「ジブリみたいな映画」ではなく単に「面白い映画」が観たいのだから。 (里)