本紙3面の連載小説、あさのあつこ著「かんかん橋の向こう側」が完結。1月24日付から新連載の秋山香乃著「河井継之助 龍が哭(な)く」がスタートした。幕末を舞台とした時代小説である
 河井継之助の名はあまり知られてはいないと思う。新政府軍と旧幕府軍が戦った戊辰戦争のうち北越戦争で、越後長岡藩(現新潟県)の指揮を執った人物。旧幕府に味方して新政府軍と戦い、結果的に藩を壊滅させる。本作の冒頭では、妻であるすが子の目を通してその人間像に迫る
 昨年のNHK大河ドラマ、吉田松陰の妹が主人公の「花燃ゆ」は視聴率的には振るわなかったようだ。新島襄の妻が主人公だった「八重の桜」も同様で、骨太の歴史ドラマを期待する大河ファンには男性が主人公の方が受けがいいのかと思われるが、同じく幕末の女性でも大奥を束ねた天璋院を描く「篤姫」は好調だった。思うに、〇〇の妹、〇〇の妻という立場の女性は、歴史的事件の当事者ではなく傍観者となる。篤姫はその点、単なる将軍の妻というより島津斉彬から密命を帯びてきた女性であり、自身の才覚によって動く当事者であった。そこがドラマを面白くしていたのではないか
 
 登場人物の内面を言葉で綴っていく小説は、視覚メディアのドラマとは性質が異なる。主人公を見つめる妻の目が、テレビカメラの役割を果たす。波乱に満ちた人生を生きた継之助の人間的な側面が、すが子の追憶によって浮かび上がる
 理想に燃えて各地で修業し、窮乏していた藩財政を建て直した継之助。最新軍備を整えて長岡藩を強くしたが、時代のうねりの中で功績は灰燼に帰していく
 長州と薩摩だけが幕末ではなかった。これまで知らなかった切り口から時代を読み取るのを、楽しみにしている。(里)