日高町小浦出身、仏像を制作する仏師で浄土宗僧侶の前田昌宏さん(42)=京都市在住=が、仏教の聖地、インドのブッダガヤにある「仏心寺」に奉納するため彫っていた「文殊菩薩像」が完成。31日と1日には、父の前田智教さん(67)が住職を務める小浦の浄土宗浄土院で地元檀家らにお披露目された。「日印の交流へお役に立てれば」と一のみ一のみに思いを込めた力作。仏心寺への奉納は12年ぶり2体目で、今月28日に現地で開眼法要も行われる。
 前田さんは日高中2年のとき、浄土院にまつられていた薬師如来像が盗まれるという事件に遭遇。その像が戻ってくることはなく、「自分の手で仏様を彫り、元の状態に安置できないものか」と仏師の道を志した。高野山高校に進学後、偶然にも仏師の美術講師に出会い、3年間学校近くの工房へ通い詰めた。仏教大在学中も僧侶の資格を取得する勉強、修行をしながら彫刻刀を握り、卒業後はドライバーの仕事をする傍ら腕を磨いた。30歳ごろから正式に仏師として活動を始め、いまは仏像の制作、販売、修復、彫刻教室の講師などを行っている。
 仏心寺はインド北部のビハール州ガヤ区にあり、平成13年に日本の人たちの寄進で建立。インド政府から正式な許可を受け、現地の子どもたちの学校の役割を果たしているほか、世界中の修行をしたい人たちへの宿泊場所提供や日印の交流を深めるための施設として利用されている。前田さんは同寺の建立前年に京都市の知恩院で開催されたポストカード原画展で仏心寺建立発起人と出会い、自身の制作した仏像を見せたところ、「ぜひ本尊を作ってほしい」と依頼を受けたのが「仏心寺とのご縁」。1体目の仏像奉納として、ヒバを材料にガンダーラ様式の釈迦座像を完成させ、15年に「平和、平等、自由、交流」の願いを込めて無事開眼法要を営んだ。
 2体目となる今回の文殊菩薩像は、釈迦座像の両脇に安置される仏像(両脇侍=りょうわきじ)の1体。昨年6月から彫刻に取りかかった。ヒバを材料にした高さ約80㌢の座像で、頭と胴、両腕など6パーツに分けて制作。優しい眼差しの表情で、力と知恵の象徴として右手に剣、左手に経典を持っている。高さ約60㌢の「獅子(しし)」の台座も作った。前田さんは25日から両親とともにインドに出発して、28日の開眼法要に臨む予定で、「文殊菩薩像の制作に際しては、多くの人に一のみを入れてもらっています。制作した私たちの思いが詰まっています。完成まで1年がかりですが、楽しんで進めてきました」などと、ボランティアでの活動も一切苦にならない様子で話していた。
 両脇侍の仏像にはもう1体、普賢菩薩像というのがあり、制作をスタートさせたところ。浄土院で文殊菩薩像をお披露目した際には本堂に持ち込み、檀家らに一のみを入れてもらった。来年夏までに完成させる予定で、この3体目の奉納で、一連の仏像制作が完了する。