イスラム教スンニ派過激派組織が残虐な殺りくを繰り返し、欧米諸国がテロの標的となって終わりなき戦いが続いている。日々、ニュースで凄惨な現場を目にするとき、世界の暴力はますます激しさを増しているように感じる。
 しかし、実際には世界の殺人は16世紀を境に減少に転じ、現在の私たちは人類史上最も平和な時代に生きている。一見、平和で争いごともなかったと想像しがちな大昔の狩猟社会こそ暴力に満ちており、近代国家の中央集権社会が成熟するにつれ暴力が減少している現実は、万年単位、千年単位、百年単位、十年単位で各種のデータが裏付けているという。
 この説を唱えるのはハーバード大のスティーブン・ピンカー教授。人は戦場のような無秩序な状況では、恐怖心から常に先制攻撃を仕掛ける習性がある。「殺される前に殺せ」という仁義なき戦いを抑えるには、民衆を代表する主権者のみが暴力を行使できる形が必要。つまり、警察等の公権力に暴力を集中させ、むやみに攻撃をすれば必ず罰せられるという社会になれば、個人の暴力が抑えられるという理屈らしい。
 ハンムラビ法典の「目には目を」のように、罪を犯せば必ず報復があると予告する抑止力も重要。それは決して、倍返しのような過剰な仕返しではなく、受けた苦痛と同じ程度の苦痛を与える同害報復にとどめ、罪を犯さなければ攻撃されることはないという安心が暴力の影を薄くする。
 ヨルダン、エジプトは自国民をテロ集団に虐殺され、報復攻撃に出た。しかしこれも、狩猟時代の無秩序社会、スターリンや毛沢東、ポル・ポトに比べればはるかに小さな暴力。日本は未来を楽観することなく、自衛の安全保障法制を急げ。 (静)