子どものころ父に魚のさばき方など教わったおかげか、上手下手は別にして料理は好きな方だ。基本的に食べるのが好きなので、晩ご飯など作っていてももうすぐこれが食べられると思うとうれしくてしょうがない。大したものではなくとも◆先日、日高高校・附属中学校保護者会「双成会」の講演会を取材した。講師は香川県の元小中学校校長で「子どもがつくる『弁当の日』」提唱者、竹下和男さん。「弁当の日」は買い出しから調理、弁当箱詰め、片付けまで全部子どもがやる弁当づくりの日を設ける取り組み。親は手伝わないのがルール。竹下さんが提唱した時は猛反対にあったが、今では全国1300校以上に広がっている◆資料の中に、卒業生に竹下さんが贈った言葉があった。「旬の野菜や魚の色彩・香里・触感・味わいを楽しめた人は、心豊かな人です」「『あるもので作る』『できたものを食べる』ことができた人は、たくましい人です」「自分の弁当を『美味しい』と感じ『嬉しい』と思った人は、幸せな人生が送れる人です」...実に20項目。自分の弁当を自分で作って食べる、それを体験することでこんなにも豊かな人間性が育めるものかと驚く。そして子どもの成長の一つ一つをすべて逃さず見守ろうとする細やかな視点、そこに込められた真心に感じ入る。取り組みが映像で紹介され、「友達に喜んでもらうことがこんなにもうれしいなんて知らなかった」という子どもの言葉が流れた時にはなぜか目頭が熱くなった◆食べるのが好きでも、自分のためならそれほど手間ひまはかけない。やはり家族に食べさせようと思うから、味にも栄養にも心を配る。人の役に立つことを「喜び」と感じる気持ちは、人間の持つ美しい本能の一つなのだろう。
       (里)