16年前、ベストセラーだった「五体不満足」を読んだ。著者は当時大学生の乙武洋匡さん。通常より短い、肘の上までの腕、膝の上までの足を持って生まれた。軌跡を綴った著書はからっと明るく、機知に富んでいる。大変面白かった。興味深いという意味だけでなく、普通に笑えるという意味でも面白かった。それでいて真摯なメッセージが感じ取れた。「障害は不便だが不幸ではない」という、簡潔にして明確なメッセージである
 日高町制60周年記念講演会を取材した。講師は38歳になった乙武さん。著書の印象通り、からっと明るくウィットにあふれる講演だった。明るさの中に真摯なメッセージがあった。「ある人の特徴を一面的に捉えるのでなく、あるがままに向き合い自然な関係を築くことで、世界は豊かになる」。障害のある人と接する時、慣れていないと身構えるが、いろんな面を知って自然に付き合えるようになれば、障害はその人の持つ一つの特徴に過ぎなくなる
 道後温泉で有名な松山市をスタッフと散策している時、スタッフが「時間あるし、足湯にでも行きましょうよ」。「ぼくがそれやったら半身浴になっちゃうだろ」「あっそうでした」と2人で笑ったという。そういうエピソードが次々に軽妙な口調で語られた。さまざまな葛藤もあったのではと推察されるが、そんなことは感じさせない
 小学校教員生活の最後に、クラスの発案で文集を作った。題は「色えんぴつ」。考案の男子は「何十本もあるけど同じ色はない。このクラスもみんな違ってて面白い」。個々の違いを認めようという乙武さんの思いを、子ども達はしっかり受け取っていた。7つの色は混ぜ合わされると真っ黒になるが、一つ一つ生かして並べれば美しい虹ができるのだ。       (里)