第68回県美術展工芸部門の審査は18日に行われ、御坊市島で「春日窯」を主宰する中野孝次さん(65)=御坊市塩屋町南塩屋=の作品「響き」が初の最優秀賞に輝いた。中野さんは3年前と昨年に優秀賞を受賞しており、今回は念願の最高賞を獲得。「だめかもしれないと思っていたので驚きました。大変うれしいです」と喜びを話している。
 中野さんは若い頃から芸術が好きで、絵画や写真なども手がけてきた。和歌山市で会社員生活を送っていたが、十数年前、春日窯を主宰していた父の金次郎さんの遺志で早期退職し、帰郷して窯を引き継いだ。工房近くの善妙寺に伝わっていた「善妙寺焼」の復活にも力を入れている。
 今回の受賞作品「響き」は高さ75㌢、幅60㌢の大作で、同部門の応募作品の中でも最大。白浜で買い求めた巻貝の貝殻からイメージを広げ、小さな渦巻き模様が大きく広がっていく自然の造形美を生かしてつくり上げた。金管楽器のホルンやチューバなどを連想させる形。「もの言わぬ陶器は、本来は静けさを感じさせる存在ですが、この作品は陶芸という方法で『響き』を表現できないだろうかと取り組みました。見る人の心に音楽的なかすかな響き、思い出に残るいろいろな響きを感じ取ってもらえたらと思います」と話し、「芸術は自分自身の表現。さまざまな美術展や舞台などに足を運んで感性を鍛えることを心がけています。一朝一夕にはいきませんが、そうして積み重ねてきたものが自分の表現に反映されればと願っています。励めば励むほど、さらに奥の深い世界であることを実感しています。これからも感性を磨き、一層励んでいきたいと思っています」と話している。県展は10月15日から県立近代美術館で開催される。そのほかの受賞は後報。