ファンでありながら最近ようやく気づいたが、ことしは和歌山が生んだ作家有吉佐和子の没後30周年だ。そういえば旧作が次々に文庫本で復刊されている。再ブームかと喜びながらも不思議に思っていた。
 
「恍惚の人」「複合汚染」「華岡青洲の妻」などベストセラーは数多い。社会派作家とも目され、注目を集める存在だった。一方、文壇や評論家の目は冷ややかで、芥川賞・直木賞とも候補になったが受賞はしていない。テーマの分かりやすさ、筋立ての面白さ、一般的な人気の高さから、必要以上に文学的価値を低くみられたのではないかと思うと義憤を感じる。
 半世紀も前の作でも今なお色あせず、引き込まれる。それは取りも直さず、作品が通俗的な面白さにとどまらず普遍的な真理を内包することを示す。近年でも「不信のとき」や「悪女について」がドラマ化された。文学的な研究対象として選ぶ人も増えているそうで、ここへ来て評価は高まっている。
 素封家の女三代の生を大きな川の流れに託して描いた「紀ノ川」。幼少時に洪水で流されてミカン農家に拾われ、ミカン栽培に生涯を捧げる女性の物語「有田川」。龍神村の温泉旅館で育ち、約束を残して去った男を思い続ける女性の物語「日高川」。いわゆる川三部作だが、残念ながら「日高川」は絶版で全集にも入っていない。この機会になんとか復刊して、三作とも文庫本で楽しめるようになってほしいものだ。
 没後30年を経ても幾つもの作が刊行されるのは、時代の要請がある証。社会情勢を、歴史に隠されたドラマを、市井の人々のささやかな哀歓を、鋭くも優しい目で捉え続けて昭和を生きた作家の仕事は、価値観の揺れ動く今の時代にこそ多くの示唆を与えてくれるように思う。     (里)