ビッグコミックスピリッツに掲載された「福島の真実編」22・23話の描写が「風評被害をあおる」として物議を醸している「美味しんぼ」(雁屋哲原作、花咲アキラ画、小学館)。食べることも漫画も好きなので20年ほど前から読んでおり、103巻の「和歌山編」は本欄でも紹介した。
 だが筆者にとっては、物語としては山岡士郎と栗田ゆう子が結婚した47巻の時点で完結しており、以後は別作品と受け止めている。主人公達の成長を通じ食の奥深さを追求していた当初の姿勢から、食を巡る社会問題の告発に内容が変わり、物語性が薄くなっているように思えたので。それでも最後まで読まなければその作品を読んだとはいえないと、新刊が出るたび目を通している。最新110巻「福島の真実①」も読んだ。
 今月19日発売分の24話で「福島の真実」は完結する。この問題自体に関しては、そこまで読まないと論じられないと思う。筆者が報道から感じたのはそれよりも、論争ばかりがあまり過熱するとかえって問題の本質が見えなくなるのではということだ。
 反対する側を感情的に攻撃しても、実りある議論はできない。どんな問題にせよ、理性的に穏やかなトーンで語り合える、開かれた空気が社会には求められるのではないか。それには冷静で公正な視点、そして議論相手への敬意が必要だ。生命と環境の問題については、自然の中に生きる本能と文明人としての英知を最大限に発揮しながら、問題の本質を見極めて対処法を探っていく必要がある。感情的に攻撃し合っている場合ではない。
 次の111巻は「福島の真実」の続編であると同時に、山岡士郎と海原雄山親子の形だけでない真の和解につながる物語が描かれるようだ。久しぶりに先行きを楽しみにしている。(里)