真偽は定かではないが、標準語は関東地方の下級武士の妻の言葉が基になっているという。ラジオ番組で司会者が言っていた。明治時代、廃藩置県で中央集権国家になった際、すべての人々に共通の言葉が必要となり、聞き手が美しく優しく感じる女性の言葉を採用したそうだ。標準語で話すアナウンサーの言葉は、優しく美しく聞き手に不快な気分を与えない。日々の生活でも標準語までいかずとも、優しい言葉で満ち溢れていればいいのだが、自分たちの会話だけでなく、他人同士の会話でも汚い言葉や乱暴な言葉を耳にすると、不快な気分になる。
 日高川町で書道教室を営む書家、大前雅美さんが、地元の中学校へ書の作品を寄贈した。曹洞宗の宗祖道元の言葉「愛語」が綴られている。「愛語」とは〝優しい言葉〟のことだ。書には「愛語とは人々を見るに当たってまず慈しみの心を起こし、思いやりの言葉を与えること。乱暴粗悪な言葉を使わないこと。愛語は好んで使うべき。敵を降伏させ、徳の高い人同士を仲良くさせ、愛語を聞く場合には自然と顔もほころび心を楽しくさせる。愛語は天下の情勢を一変させるほどの力がある」などという意味のことが書かれている。
 相手を傷つけ、聞く人を不愉快にさせる汚く乱暴な言葉には、優しさや思いやりの心は微塵もない。道元禅師は、慈しみの心を出発点に優しい心が生まれ、優しい心からこの愛語が生まれると説く。大前さんは生徒たちにこの言葉を伝えたいという思いで作品を制作した。大前さんからのプレゼントに感謝の気持ちいっぱいで愛語の精神を肝に銘じた生徒たちは、優しさと思いやりに満ち溢れているように見えた。筆者も常日頃から愛語の精神を心掛けたいと思う。   (昌)