勤務時間の関係上ちょうど見られない時間帯なので、NHK朝の連続テレビ小説はもう長らく見たことがないが、今月31日からの新作「花子とアン」は録画してでも見てみたいという気持ちが少し動いている。
 
 少女向けの本より少年探偵団シリーズなどミステリーや冒険物が好きな子ども時代を送ったが、「赤毛のアン」シリーズは例外的に気に入ってよく読んだ。直接の理由は食べ物の描写が大変魅力的だったからで、「まっかなゼリーをはさんだ、黄金の泡のようなレヤーケーキ」など幾つかの表現を今でも覚えている。もちろん物語自体の面白さはいうまでもない。少女の成長を描くというだけでなく、第1次世界大戦にまで至る骨太のストーリーだ。
 ことしは日加修好85周年だという。1929年、日本にカナダ公使館が置かれた年を基準としているが、当地方のカナダとの縁はそれより40年以上も古く、1888年、三尾村出身工野儀兵衛のカナダ渡航にさかのぼる。筆者の祖父も終戦数年後まで単身カナダで暮らした。幼い筆者にサンデー、マンデー、テケツ(チケット)など簡単な英語を教えてくれたのを覚えている。
 自身と関わりの深い国でありながら、考えてみるとこの国については雄大な自然と特産のメープルシロップ、「赤毛のアン」以外のものはあまり知らない。調べてみて、各国の移民を受け入れてきた歴史ゆえか「多文化主義」を掲げる懐の広さなど美点を幾つも知った。
 5年ごと、10年ごとの周年行事は、そのものへの関心を呼び覚まし、新たな発見を促すきっかけとなる。日本中に愛すべき少女「アン」を知らしめた翻訳者村岡花子の物語から、あらためて発見の喜びが味わえればと期待している。    (里)